おなかの赤ちゃんと音楽

産婦人科のサービスの一つとして妊婦さんを対象としたコンサートを取り上げているところがあります。

病院内のホールでプロの演奏家による胎教コンサートを開いたり、中には院長や院長夫人の趣味を活かした演奏を聴かせるところもあって、「おいおい、そんなへたな演奏を聴かせると胎児に悪
い影響を与えるんじゃないの?」と周囲が心配しているといった話が伝わってきます。

私自身も音楽が大好きで、以前にアマチュア交響楽団のメンバーとして演奏活動に参加したことがあります。

そんな時にも客席におなかの大きい妊婦さんがいると「お腹の中で赤ちゃんがびっくりして飛び上がるんじゃないか」などと仲間で冗談を言っていました。

さて、お腹の中の赤ちゃんは音楽を楽しむことができるのでしょうか?。

赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいるとき、妊娠5〜6カ月には既に聴覚があると言われています。

外から強い音を聞かせて反応をみる研究(胎動あるいは心拍数の変化をみる)では、妊娠7カ月ないし8カ月には全例に反応が認められています。

この場合、高い音よりも低い音に反応が強く、急激に大きい音を聞かせたときには反応するが、徐々に強くしたときは反応しないといわれ、この反応はびっくりして動くものと考えられています。強い
音を連続して聞かせると赤ちゃんはじっと静かにしています。

美しい音楽を聞かせると、ときにはあたかも音楽に合わせて踊るかのように動くこともあるといわれています。

クラシック音楽のコンサートとロック音楽のコンサートとでは、まったく異なった踊り方をするという人もいます。

 赤ちゃんはお腹の中でいろいろの音を聞いています。

当然ながらよく聞こえるのはお母さんの声、そしてお母さんの心臓の「ドキッドキッ」という音や、胃や腸の「ゴロゴロ」という音です。

生まれる前からお母さんの声や歌を聞いて育っているのです。もちろんお父さんや他の家族の声も腹壁を通して聞こえています。

 泣き止まない赤ちゃんの耳元でお母さんの心臓の音を聞かせると静かになるということが分かっています。

病院の新生児室で、録音した心臓の音を聞かせているところもあります。

よくお母さんが赤ちゃんをあやすとき、抱いて背中をぽんぽんと軽くたたくと泣きやんで安心したかのように眠るのを見かけますが、これはお腹の中にいたとき心臓の拍動が伝わっていた記憶を呼び起こすのだといわれています。

赤ちゃんが安心して眠るリズムは大人の落ち着いた状態の心拍数、すなわち1分間に60〜80位ということになるでしょう。


 ブラゼルトン博士は「親と子のきずな」(小林登訳、医歯薬出版)の中で、ピアニストをしているお母さんが赤ちゃんのそばである協奏曲を弾いていたら、妊娠中に繰り返し練習していた部分にくると赤ちゃんがすっかりおとなしくなり、まるで「僕、その曲を知っているよ」とでも言うように、ピアノの方を見たという話を書いています。

 また、バーニー博士は「胎児は見ている」(小林登訳、祥伝社)の中で、「胎児が好むのはビバルディやモーツアルトの音楽で、これらの作曲家の軽やかで明るい感じのする音楽を産婦に聞かせると、胎児の心臓の鼓動は安定し、動きもおとなしくなる。

逆に、ベートーベンやブラームス、またロック音楽を聞かせると、激しく動き出す」という報告を引用しています。

しかしながら、札幌の林先生は「胎教コンサート」を催してエレクトーン演奏を聞かせて胎児の反応を見たところ、お母さんの好きな曲、思いでの曲、いつも聞いている曲、映画音楽、スローなゆったりとした曲、ワルツ・ボサノバなどによく反応して心拍数が上昇したが、ハードロックやジャズのようにテンポが早くメロディやリズムの不規則な感じの曲には反応がなかったと述べています。

 このようにバーニー博士と林先生は一見反対の結果のようですが、次のように解釈すると理解できます。
すなわち、

1)お母さんが特に好き嫌いのない静かな曲では赤ちゃんもゆったりとしている。

2)お母さんの好きな曲ではお母さんがリラックスし、楽しむとともに赤ちゃんの心拍数は上昇し、適度の胎動が見られ。

3)激しいリズム、大きな音などは直接赤ちゃんに達して不安にかられた赤ちゃんは激しく動き出す。

これらの反応は音楽が直接赤ちゃんの聴覚に伝わって起こる反応と、お母さんが音楽を聞いて起こる情緒的反応が体液を介して胎児に伝わることによる反応とが組合わさっているものと考えられます。

患者さんに「どんな曲をお勧めですか?」と尋ねられると、「1分間60-80拍位のゆったりとした曲で、クラシックならピアノソナタや、モーツアルト・メンデルスゾーン・ビヴァルディ等の管弦楽、ポピュラーならポールモーリアのムード音楽、リチャードクレイダーマンのピアノ等」と自分の好みをおしつけています。

ちょっと古いですね。

 私は「胎教」という言葉はあまり好きではありません。

妊娠中だからといって特に難しい本を読んだり、なじみのない音楽を聞いたりする必要はなく、お母さんの好きな曲、いつも聞いている曲を聞いて楽しむことが赤ちゃんの適度な運動を誘い、知的発育にも良いのではないかと考えています。